卓話

「経営への一歩」 井上百合会友

2018年05月09日

後継者として帰郷して4年が経つ。小さい頃から家業を継ぐと言う自覚はあったものの、妻として蔵元を支えるイメージ。まさか自分が酒を造り、営業、そして会社経営をするとは思わなかった。人生はわからない。本音は、酒を造るのならば醸造学科、経営するなら経営学や経済学専攻の道を選びたかった。美術大学への推薦が決まっていたが、急遽、親の助言により家政科へ変更。専業主婦であった50歳前のわからんちんが経営の道に飛び込んだ4年間をお話したいと思います。  入社時の呼び名は百合さん。皆とても親切で、一番下っ端なのにと申し訳なかった。焼酎・清酒・詰口・営業・事務の順番で現場を経験。同時進行で経営状況、資金繰りを学ぶ日々。売上減少が続いているにも拘らず借入金返済金額が上がる仕組みは危機的状況。手の届かない目標は返ってやる気を無くす。そこで、実現性の高い経営計画を新たに策定する決意をし、メインバンクに相談。計画書作成に向けてベンチャー企業1社を選んだ。この選択は運命の分かれ道だったと思う。今日に至るまで詳細なご指導をいただきながら経営改善を継続中。先ずは、社員向けに「中期経営計画策定に向けたご協力のお願い」という資料の作成に入る。そして、社員に協力を要請。売上が減少傾向にあり、改善に取り組む必要がある。改めて現状を見つめ直し、今後の方向性を明確化し、新たなステップに進んでいく為に中期計画を策定する旨を伝えた。現場で起こっている事を是非教えて欲しい、主役は皆さん。多数の意見に心を打たれたこの日、経営の一歩を踏み出したと思っている。  H27/7~30/6(3か年)経営改善計画書の作成に入る。先ず、経営理念を策定。「品質」「伝統」「革新」品質を第一に考え、安全安心の酒造りに努め、伝統を大切にしつつ、新しいことへ挑戦する企業を目指す。これは中期経営計画の骨子。作成中、財務状況において理解できず苦悩。例えば部門別損益、償却前当期利益、棚卸資産、利益償還財源、キャッシュフロー等々。「私は今現在、分からない事が分かりません。10年後に分からないでは済まされない。どうか助けて欲しい。」と申し出る。自社の月次について金融機関にも質問する始末。内部環境分析として社員からの意見を集約し、遂に資料が出来上がる。  この策定されたソフト面ハード面の実行計画、設備投資計画、人員計画、損益計算書の数値計画の達成を追う日々が始まった。更に、この計画書を分かり易くまとめて新たに資料を作成し「井上酒造を支えてくれる従業員の皆様へ」として、かなり踏み込んで開示。今置かれている状況を打破していくために、現場での意見を可能な限り聞きながら、経営上のムダや足りない点を顕著化させ経営計画を策定した事を説明。社員に向けて「得た利益は必ず皆さんにお返しする」と約束した。ここから5S活動が始まり、利益率や生産性UPについて自主的に意見が出るようになる。この年、売上減少は続くも販管費大幅削減により利益が出て決算賞与を支給。サイクルが出来たと言える。  今年は計画の重要な最終年度であったが豪雨災害に見舞われた。再度、目標からかけ離れつつあるが、社員一丸となって目指す姿を追っている。災害はつらく悲しい出来事だったが学ぶ事が沢山あった。今迄守るべき人は娘ひとりだけだった。しかし今は社員達とその家族がいる。私は経営者として彼ら全てに責任がある。この気持ちが支えとなり災害を乗り越えられた。経営の道は始まったばかりだが、一歩一歩確実に前進していきたい。